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同志社人インタビュー第9回 ~書家 川尾朋子さん~

同志社人インタビュー第9回目は、前回の内田誠さんにご紹介いただきました、書家の川尾朋子さんにインタビューを行いました。
場所は、川尾さんの母校である同志社女子大学今出川キャンパスのジェームズ館にて行いました。久しぶりに母校に来校され、大変喜ばれていました。お忙しい中、貴重なお話を沢山お伺いすることができました。ぜひ最後までご覧ください!

(栄光館前にて)

川尾 朋子氏 書家

2000年同志社女子大学生活科学部人間学科卒業。6歳より書を学び、国内外で多数受賞。古典を重んじながら、様々な角度から「書」を捉え、現代の書作品を制作。空中での筆の動きに着眼した「呼応シリーズ」、自身が文字の一部になる「HITOMOJIシリーズ」などを発表。国内外の美術館での作品展示、パフォーマンスなどの活動の他、JR京都駅「京都」、阪急嵐山駅「嵐山」、寺院の石碑等も揮毫。NHK大河ドラマ八重の桜OP映像、RUGBY WORLD CUP 2019 Official Movie、BBC「Art of Japanese Life」出演、LOEWE、ポルシェとのコラボレーションなど活動は多岐に渡る。四国大学特任教授 京都在住

インタビュアー
・同志社女子大学現代社会学部社会システム学科3年次生 和田 朋(写真:左)
・同志社女子高等学校3年生 森田 理沙(写真:右)

Q:私は友人が書道を始めたことがきっかけで、書道を始めました。川尾さんが書道に興味を持ったきっかけを教えていただきたいです。

A:いろんなきっかけがありますよね。私は山と川に囲まれた田舎で育ち、お転婆で、男の子とばかり遊んでいました。そこで、母が書道をさせようと、書道教室に連れて行ってもらったことがきっかけです。

Q:書道家になろうと考えた時に、何から始められましたか。

A:古典の文字を練習しつつ、自分はどんな作品を作りたいのかという自問自答をしていました。会社の内定を辞退して「私、書道家になる」と言ったものの、「この人みたいになれたらいいな」という人がいなかったので、手探りでしたね。大事にしなければならないなと思っていたのは、3500年も続いている書(文字)を自分の中に取り込んでいくことです。

Q:ひとつのことをずっと続けられる秘訣を知りたいです。

A:どんな物事でも、知れば知るほど自分が無知だと分かっていくので、「知らないこと」に興味を持つことでしょうか。興味を持てる分野や要素を探していくというのが秘訣かなと思います。例えば、私が高校生の時は、自分の好きなこととくっつけてやってみるとか、自分で試してみるということをしていました。その時気に入っていた音楽をガンガン聴きながら書いてみたこともありました。

Q:制作のアイデアを見つけるためにしている、日常生活のルーティーンはありますか。

A:できるだけ世界のニュースを見るように心掛けています。今を生きる自分がどういう作品を作れるかという事が大事だと思っているので、今起こっている出来事、何が問題なのかを把握できたらと思っています。

Q:川尾さんが1日の中で書道にかけている時間はどのくらいですか。

A:日によって違いますが、書道にかける時間は4、5時間ですかね。
若い頃は、自分の限界まで書いていました。墨が乾くのを作品のそばでじっと待ったり、徹夜したりしていました。今は、長く続けるためには休憩も仕事のひとつだと気づき、できるだけ休みを取るように心掛けています。
午前は、臨書といって昔の方が書いたものを真似して書くという勉強をしています。午後は、自分の制作に充てています。アトリエでは大きい筆の練習もしています。全形が分からない状態で字を書くのは、分かる状態で書くのとは感覚が異なってくるので、この画数は3歩で書こうというように、全身の動きとして捉えています。

Q:時間管理が、以前と今では大きく変化したとのことですが、他に自身に起こった変化はありますか。

A:考察の時間が長くなったことですね。もう一回どのように見直せばいいのか、パソコンなどで違う見方をするようになりました。他には、気持ちの切り替えが前よりできるようになった気がします。考え事をしたまま制作すると、作品に影響していると思うので、できるだけ真っ白な状態で臨もうと心掛けています。

Q:これまで書に向き合ってきて、「書について」「自分自身について」の気づきはありましたか。

A:たくさんあるのですが…。大学生の時の気づきが、大きかったですかね。
四年のときに、希望していた企業に内定をいただいたのですが、「この仕事に100%を注いでしまったら、書道ができなくなる」と思ったんです。そこで初めて、書道がアイデンティティの一部になっていることや、本当にしんどい時に助けてくれたのは書道だと気づくことができました。特に、中学校や高校では体が弱く学校に半分くらいしか行けなかったので、いつも自分のそばに書道がありました。
書道がなかったら自分はどうなっていたのだろうと思うくらい、書道があっての人生で、本当にありがたいなと感謝する毎日です。書けることが当たり前じゃないからこそ、書道ができるという環境や体調にも、深く感謝をするようにしています。

Q:先ほど出てきた「感謝の気持ちをもつ」ことのほかに、制作の前にされていることはありますか。

A:そうですね。人前で書く機会をいただくことも多いのですが、どの場所でも同じ状態になれたらいいなと思っているので、呼吸を整えています。
SFのような話になってしまいますが、「マントルのところから吸い上げて、宇宙に解き放つ」みたいな想像や、「身体全体に酸素がいきわたっている」というような想像を繰り返すことで、どこにいても安定した精神状態を作ることを心掛けています。

Q:これから「書」によって実現していきたいビジョンや目標はお持ちですか。

A:現代の書家として、「書」というものをもっといろんな角度からとらえて、見ていただけるような作品を残していきたいなと思います。目標です!
直近でいうと、HITOMOJI PROJECT-women- の一環で、台湾の女性にインタビューをして、台湾にいる女性の「今」を表す漢字をまとめた展覧会で作品を発表し、世界中の人に見てもらえたらなと思っています。

Q:同志社女子大学で出会った仲間との繋がりはありますか。

A:はい、今も続いています。
今、私のホームページを管理してくれているのは、入学式の時に出会った友人です。他にも、仲がいい友人と繋がっています。今はもうなくなってしまった大学のラウンジで、授業の合間に集まっていました。
同志社女子大学で出会った友人は、自分で仕事をしていて、自立している人が多いなと思います。学生の頃の友人は、利害がなくつきあえているので、かけがえのない一生の友人だなと思います。

ヘアーショー出演時にて(左)、大好きな骨董市にて(右)

Q:大学時代にしておいたほうがいいことがあれば教えてください。

A:やりたいなと思うことがあったら、すぐやってください。
どんどんやって、失敗してください。


もし私が今大学生に戻ったならば、日本文化を学びたいと思います。せっかく京都という歴史ある場所にいるからこそ、深く探求してもよかったな、と。そのうえで、世界の人と文化を教え合う時間を持てたら、もっと良かっただろうなと思います。

Q:最後に、同志社の後輩にむけて、アドバイスをお願いします。

A:諦めずに続けていたら、何かは必ず見えてきます。努力することが辛くないと感じるものが、皆それぞれ見つかったらいいですね。追っていた夢が成就しないこともあると思いますが、一生懸命やることで、次の目標が見えてきたり、向き不向きが分かったりします。一生懸命やり続けないと分からないので、ぜひ突き詰めてやってもらえたらいいのかなと思います。

インタビューを終えて感想

■和田 朋さん(同志社女子大学現代社会学部社会システム学科3年次生)
 インタビューの機会をいただけると決まった時から、この日を待ち遠しくしておりました。川尾さんと対面できた時には、しなやかな強さを兼ね備えたかっこいい女性のオーラを感じ、スッと背筋が伸びました。話していると、謙虚で、物腰が柔らかいお人柄を感じました。1時間半という短い時間の中でも、「やり直しがきかないという点で書道と人生と同じだ」と話された川尾さんの視点で、書道の奥深さを覗き見ることができた気がします。
 インタビューを通じて、「感謝」の気持ちを大切にされていると感じました。「書けることが当たり前じゃないからこそ、書道ができるという環境や体調にも、深く感謝をする」というお話が印象的でした。どんな物事に対しても、同じように感謝するべきだと思いました。私の場合は、大学での学びのほかに、長く続けている新体操や大学で力を入れている活動団体が頭に浮かびました。
 最後のアドバイスは、一生懸命に「書家になる」という夢を追い続け、「書道があっての人生」と言い切る方だからこその説得力がありました。川尾さんの様に、一生懸命に自分がやりたいことに向き合い、叶えたい目標を追いかけ、輝き続ける人を目指したいと思います。貴重なインタビューの機会をいただき、川尾さんとお話しすることができたことに感謝いたします。


■森田 理沙さん(同志社女子高等学校3年生)
 今回のインタビューを通して、川尾先生が書道にとても真摯に向き合っている姿に心を打たれました。インタビュー中に、先生が制作された作品を見せていただきました。そのなかでも特に印象的だったのが「HITOMOJI Series」で、先生自身の身体が文字の一部分となっている作品です。先生の全身が作品と繋がり、そこから女性の想いまでもが表現されていることに驚きました。改めて書道の奥深さや面白さを感じることができました。
 
 私は、小学校低学年から書道を始め、同志社女子中高書道部でも書道を続けてきました。大学生になって書道を続けるか迷っていることを先生に告げると、続けたほうがよいと仰って下さいました。先生のお話を聞き、一つのことをやり続けることはとても尊いことで、そのようなものに出会えたこと自体が幸せなことだと気付くことができました。好きなものに向き合い、コツコツと研鑽を積み重ねることで、目に見えなくても自分の内面の中で、何かを得られたと思えるようになりたいです。これからもこのようなことを心に留めて、色々なことを学び続けていきたいと思います。

【川尾さんから次回の同志社人インタビューに登場してくださる方をご紹介いただけないでしょうか。】

藤野 可織さんを紹介させていただきます。
2006年「いやしい鳥」で第103回文學界新人賞受賞され、2013年「爪と目」で第149回芥川賞受賞し大変活躍されている小説家です。藤野様とは知人の紹介で食事をご一緒させていただいたのが出会いです。柔らかで、かつ神秘的な雰囲気が印象的でした。
同志社中学校から大学院まで、同志社で多くの学生生活を過ごされた藤野さんが同志社からどのような影響を受け、小説家を目指したのか、夢に向かって今何をしておくべきか学べると思い、次のバトンをお渡しさせていただきます。

——— 次回は、小説家 藤野 可織 様(2004年同志社大学大学院文学研究科美学芸術学専攻修士課程修了)にご登場いただきます!お楽しみに!