同志社人インタビュー第8回 ~日産自動車株式会社 代表執行役社長兼最高経営責任者 内田 誠さん~

同志社人インタビュー第8回目は、前回柴田雅久さんにご紹介いただきました、日産自動車株式会社 代表執行役社長兼最高経営責任者 内田誠さんにインタビューを行いました。
場所は、横浜市みなとみらい地区にある日産自動車グローバル本社。初めて入る企業の巨大なビルにインタビュアーの二人は驚きと共に興味津々でした。インタビュー後には、未来の車などが展示されているギャラリーやオフィス内を見学させていただきました。お忙しい中、貴重なお話を沢山お伺いすることができました。ぜひ最後までご覧ください!

(日産グローバルギャラリー)

内田 誠氏 日産自動車株式会社 代表執行役社長兼最高経営責任者

1966年生まれ。同志社大学(1991年神学部)を卒業後、日商岩井(現双日)に入社。2003年に日産に中途入社、アライアンス共同購買部門に配属。新興国向けブランド「ダットサン」の収益管理責任者などを経て2016年常務執行役員。2018年専務執行役員。東風汽車有限公司総裁として中国事業を率い、2019年12月から現職に。小学生時代はエジプト、中高時代はマレーシアで過ごす。

インタビュアー
・同志社大学商学部1年次生 田谷 駿治(写真:右)
・同志社国際高等学校3年生 麻生 史乃(写真:中央)

Q:1900年代に自動車は欧米への憧れ、ファッション、そしてステータスとしての価値を持ち、多くの人々にとって車はキラキラとした夢の象徴でした。しかし、時代が進むにつれ、特に若者を中心にそのような価値観に変化が見られると聞きます。このような背景の中で、今後自動車がどのような新たな価値を提供し、どのような役割を社会の中で果たしていくとお考えですか?

A:ランボルギーニ・カウンタックや、フェラーリ、ポルシェ、そして日産のGT-Rなど、自動車はかつて、自己アイデンティティの象徴として重要な役割を果たしていました。これらの車は、所有することが自己表現の手段となり、人々の憧れの存在でした。しかし、気候変動への意識の高まりと生活様式の変化に伴い、現代では、より実用的な必需品としての価値を持つようになりました。今日、スマートフォンが生活に不可欠なアイテムとなったように、自動車もまた、生活の一部としての機能性と利便性を提供する必要があります。日産としては、このような社会の変化を受け、ドライブの楽しさやイノベーションを通じて生活を豊かにする新たな価値を提供し、多様性を重視した商品開発を目指しています。未来の自動車は、ただ移動するための手段を超え、人々のライフスタイルに合わせたサービスを提供し、より質の高い生活を実現するためのパートナーであるべきと考えています。

Q:小学生時代をエジプトで、中学・高校時代をマレーシアで過ごされたとのことですが、その経験がどのようにご自身に影響を与えているか教えてください。特に、国際的な視野や多文化への適応能力の形成についてお聞きしたいです。

A:海外での青少年期は、異文化への適応と多様性の理解を深める貴重な機会でした。エジプトでの小学生時代は、日本人が少なくアラビア語が主流の環境で過ごしました。日本人学校に通いながらも、外に出ると様々な文化や宗教的な背景に遭遇し、自分とは異なる「当たり前」を自然と受け入れる柔軟性を身につけました。例えば、ラマダンのような宗教行事は、彼らにとっては日常の一部であり、私にとっては新しい文化への理解を深める経験となりました。マレーシア時代も同様で、こうした経験は、異なる文化や価値観を受け入れることの重要性を教えてくれ、現在の私の国際的な視野や多文化への適応能力に大きく貢献しています。自分とは異なる「当たり前」を受け入れることで、変革に対する適応力を高め、異文化間の架け橋となる能力を育ててくれました。これらの経験は、現在の変わりゆく時代においても、異なる文化背景を持つ人々と共に働く上での基盤となっています。

小学校時代、エジプトにて(左)、中学・高校時代、マレーシアにて(右)

Q:コロナ禍の開始と同時期に社長に就任された際、直面した最大の課題は何でしたか?

A:当時、自動車業界は100年に1度の変革期にありましたが、コロナ禍では、特にサプライチェーンの問題や半導体の入手困難が非常に大きな課題でした。しかし、それを上回る挑戦は、イノベーションを生み出すために、企業文化の改革を進めることでした。この過程では従業員から経営層まで、全員が強い覚悟を持つ必要があります。従来のやり方では通用しない速さで世界は変わっているので、企業文化改革は継続して進めています。社員一人一人が自ら時代にあったやり方にチャレンジしていくことを後押しするのは経営者としての私の使命です。

Q:組織において多様な人々の意見を聞き入れることは素晴らしいことですが、それをまとめることは非常に難しいと思います。多種多様な意見をどのように受け入れ、調和させるために、心がけておられることはありますか?

A:それは大きな課題ですね。一人ひとりが個性を持っており、会社には様々な考え方が存在します。多様性をどう受け入れるかは、相手の話を聞くキャパシティ、つまりは、心の容量を空けられるかにかかっています。自分の意見だけを言っていると、他の人の意見を聞き入れることができません。重要なのは、相手の立場に立ち、その意見の背景を理解し、許容範囲を広げることです。透明性を持って情報を共有し、相手を尊重することが、信頼関係を築く上で重要です。リーダーシップを発揮することは、上下関係が存在する中で、多様性を受け入れ、相手を尊重することが問われます。重要なのは、透明性、尊重、そして信頼を基に、全員が一緒に頑張りたいと思えるような環境を作ることです。

Q:組織のリーダーとして、犠牲を払わずに何かを得る場面は少ないと思います。そんな時、何に重点をおかれていますか。

A:確かに、リーダーとして難しい選択を迫られることは多いです。私が頼りにしているのは「鈍感力」です。過度に物事を気にせず、必要な時には意識的に距離を置くようにしています。ワークライフバランスを大事にしており、仕事のストレスを家庭に持ち込まないことを心掛けています。例えば、会社で何か嫌なことがあったとしても、家では家族との時間を大切にし、リフレッシュします。これは、会社の中で失敗や挫折からいち早く立ち直り、次に進むために重要です。また、私の仕事は従業員とその家族の生活につながっているため、自分自身の健康と心の安定を保つことが、結果的に組織全体の利益につながります。

さらに、経営者としては、常に初心を忘れず、謙虚な姿勢を保つことを心掛けています。長く権力のある立場にいると、人はその環境に慣れ、いわゆる忖度から誤解をしてしまうことがあります。だからこそ、いつでも立場が変わっても適応できるように、自己との対話を欠かさず、自分自身を見失わないようにしています。これは、部下や従業員との関係においても、彼らが共感し、尊敬できる人物であり続けるために重要です。また、家族との時間を確保し、彼らへの感謝を忘れないことも、私にとっては大切なバランスの一部です。

Q:昔はグローバル化を先取りして成功を成し遂げた一面があると思います。今の私たちが未来を見据えてできることは何だと思いますか?

A:時代の流れがグローバル化を推進させたと感じています。特に、私の時代には存在しなかったインターネットがこの流れを加速させ、世界を瞬時につなげる新たな時代を開拓しました。グローバル化は成すべくしてなったと私は感じています。今、私たちはインターネットをはじめとする技術を活用して、情報を瞬時に共有し、世界中とつながることができます。これからの私たちに求められる役割は、このネットワークを通じて多様性をさらに受け入れ、相互理解を深め、より包括的な世界観を育むことです。未来を見据え、AIの様な技術進化を社会の持続可能性に生かす方法を考え、それを適切に統合していくことが、私たちの使命となると思います。

Q:大学に入学後のことでアドバイスをいただきたいことがあります。何に力を注いで、どのようなことを目標に頑張っていけば良いでしょうか。

A:大学生活は、一度きりの貴重な期間です。この時期には、大人になってからでは体験できない多くのことに挑戦できる機会があります。例えば、社長というポジションを一度離れると、二度とこの経験はできないかもしれません。これは、大学生活においても同じです。大人になれば、新しい挑戦をするチャンスは自然と減っていきます。そのため、大学在学中は焦らず、後悔のないようにその瞬間、瞬間を楽しんで欲しいと思います。

社会人になると、避けられない社会的責任やプレッシャーが生じますが、大学時代にはその点で自由があります。会社の面接では、大学生活を満喫し、多くを経験した人の方が、魅力的に映ることがよくあります。失敗を恐れずに色々なことに挑戦し、多くの経験を積むことが、自己成長につながります。

大学でしかできないこと、挑戦してみたいことに積極的に取り組んでください。そうすることで、将来、社会に出た時に自分の強みとなり、大きな自信につながります。

インタビューを終えて感想

■田谷 駿治さん(同志社大学商学部1年次生)

今回のインタビューを通じて、今にしかできないことへの挑戦や、多様性を受け入れ変化に柔軟に適応することの重要性など、多くの学びを得ることができました。「今を大切にし、後悔しないように生きる」という内田社長の教訓は特に心に残り、この二度と来ない“今”という時間に、積極的に新しいことに挑戦し、未来の自分が後悔をしないような選択をしていこうと強く感じさせられました。
この度は、貴重な体験をさせていただき、誠にありがとうございました。

■麻生 史乃さん(同志社国際高等学校3年生)

今回のインタビューを通して、これからの大学生活を含め、生活していく中で大切なことを教えていただきました。
 一点目は海外在住経験があり、帰国子女である内田社長は、幼少期にエジプトとマレーシアで経験した苦労を、チャンスが与えられたと表現されました。海外での経験により、様々な宗教や多様性を受け入れる受容性、そして新しい環境に順応する能力を身につけることができたと仰っていたことが印象に残りました。
 また、内田社長が大事に思っている事として、鈍感力という言葉を伺いました。大きな事に挑戦するためには、オンとオフの切り替えが大事であること。またオフの時に自分の時間を作らなければ、結果として周りを心配させる事に繋がり、大きな事には挑戦できない。そこで自分の時間において大切なのは失敗を引きずらないといった鈍感力が大切であると仰っていたことが印象に残りました。この二点を聞いて、私もオンとオフの切り替えができるよう心掛け、前向きになって、多様性を受け入れることができるようになりたいと思いました。また大きな事を挑戦するためには自分自身だけではなく、周りの人の助けが必要であるということが分かりました。
 お話を伺い、内田社長は人間関係を大切にされていることが印象的でしたが、海外での経験が根底にあるのではないかと思いました。私もこれからの生活の中で、様々な経験をチャンスとして活かして、広い視野を持てるようになりたいと思いました。

【内田さんから次回の同志社人インタビューに登場してくださる方をご紹介いただけないでしょうか。】

同志社女子大学生活科学部卒業で書家である川尾 朋子さんを紹介させていただきます。
川尾さんとの接点は、日本で行われた海外向け高級車ブランドINFINITIのイベントにて、パフォーマンスをしていただきました。迫力のあるライブパフォーマンスは、大変すばらしいものでした。伝統的なものをイノベーティブなやり方で表現することは、INFINITIブランドと通ずる部分が多くあります。
川尾さんは、国内だけでなく海外からも評価が高い書家です。なぜ書家の道を志すようになったのか、学生さんにとっては将来に向けて今何をするべきかなど多くのことが学べると思い、バトンをお渡しさせていただきます。


——— 次回は、書家 川尾 朋子 様(2000年同志社女子大学生活科学部卒業)にご登場いただきます!お楽しみに!