同志社人インタビュー第5回 ~裏千家の茶道資料館副館長 伊住禮次朗さん~

同志社インタビュー第5回目は、前回河内ご兄弟にご紹介いただいた、伊住禮次朗さんにインタビューを行いました。茶道資料館を訪問させていただき、貴重なお話を沢山お伺いすることができました。
ぜひ最後までご覧ください!

≪プロフィール≫
裏千家の茶道資料館副館長 伊住 禮次朗 氏 (写真:中央)
1989年、京都府生まれ。伊住宗晃(裏千家16代家元坐忘斎実弟)次男。
同志社大学商学部商学科卒業、京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術専攻を修了し、博士(学術)取得。堺市博物館学芸課(非常勤)勤務を経て、現在は茶道資料館副館長、裏千家学園茶道専門学校副校長、NPO法人和の学校理事長等をつとめる。

【執筆・監修書籍】
『利休のかたち―好み道具と「利休形」』(共編:三笠景子、淡交社、2020年)
『裏千家今日庵の茶室建築』(監修:茶道資料館、淡交社、2022年)



インタビュアー
・同志社大学法学部3年次生 青木 菜々子(写真:左)
・同志社高等学校3年生 乾 心優子(写真:右)
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Q:私は、抹茶アイスがきっかけでお抹茶が好きになり、高校から茶道を始めました。伊住さんが茶道に興味をもったきっかけを教えて頂きたいです。

A:もともと、裏千家に生まれ育ったということもありますが、茶道に興味をもった最初のきっかけは、掛け軸やお花といった茶道の「空間のしつらえ」や、それに対する考え方に触れたことです。お稽古の際に、先生からの学びを通じてお茶の世界にぐっとのめり込んでいきました。私は、お茶の世界への入り口は、どこからでも良いのではと考えています。例えば、着物が好きで、着物を着て何か体験したいと考えたときに、お茶の世界に入ってくださる方、日本食やお菓子、日本建築が好きな方々も同様です。どの入り口から入っても、最終的にはどれもが茶の湯に繋がるのではないかと思います。

Q:伊住さん自身も、京大リベラルアーツ教室や、「伝統文化を現代につなぐ」というトークイベントに参加されており、茶の湯への入り口というものを、たくさん提供されているように思います。茶道という伝統文化を途絶えさせないために、心がけていることはありますか。

A:生活の中で、どのように茶の湯が活かされ、馴染んでいくのかということを考え、提案していくことが私自身のミッションだと思います。伝統文化との接点が、日常生活になくなってきているなかで、本質を守りさえすれば、様々な形の茶の湯を提案していくことができると考えています。私の考える茶の湯の本質というのは、お客様(ゲスト)と亭主(ホスト)が、いかに良いコミュニケーションを取ることができるかという点です。この点を心がけながら、裏千家として、時代の変化に応じた提案を積極的に行っていきたいです。

Q:それでは、次に、学生時代のことについてお伺いします。伊住さんは、同志社でどのような学生生活を過ごされていたのですか。

A:中学時代は野球部でしたが、高校時代は学校の部活には所属せず、友人たちとスケートボードに熱中していました。また、大学時代は、絵を描くことや、グラフィックデザインが好きで、音楽イベントのチラシ、フライヤーなどを制作していました。音楽のイベントでは、実際にお客さんの前で絵を描く、ライブペインティングなども行っていました。新町キャンパスの近くに小さな家を友人と借りて、そこをアトリエや展示室としていたことも思い出です。

Q:茶道についても「空間のしつらえ」など、芸術的な側面から興味を持たれたとおっしゃっていました。学生時代のこれらの活動も、茶道に結び付くものがあるのでしょうか。

A:あると思います。私自身、ただ自分の好きな絵を描くというよりも、コミュニケーションの媒介になるものを描いたり、作ったりすることが好きでした。チラシやフライヤーというものは、イベントに人を繋ぐための一つのツールだと思いますし、茶の湯も、モノと自分が対話する、人同士が対話する、といった関係性の中で成り立っていく世界です。つまり「コミュニケーションアート」とも言えるでしょう。その点で、両者は結びつく部分があると思いますし、自分の興味の向く方向は全て同じだなと感じます。

Q:現在のお仕事をされているなかで、同志社で学んだことが活かされているなと感じた瞬間はありますか。

A:社会に出て、お茶の世界に入ったとき、そこには永い茶道の歴史があり、多くの先達がいらっしゃいました。そのような中で「茶の湯をどのような世界にしていきたいのか」ということを自ら考え、心を作っていくことができたのは、同志社の自由な校風で学んだからこそだと思います。同志社で学生生活を過ごしたことで、「自由であるためには、まず自分自身を確立していなければならない」ということに気づくことができました。自らを行動の由(よし)とする、ということですね。研究者の端くれとして茶の湯文化の研究を始めるキッカケもそこにあったと思っております。

Q:それでは、最後にお伺いします。今後、同志社にはどのような学園になっていってほしいですか。

A:現在の校風・伝統を守りながら、新島先生の開拓精神を忘れず、必要に応じた変革を恐れずに進めていってほしいと思います。そして、新島先生の精神というものを基礎にしながら、常に新しい価値観やメッセージを打ち出していくリーダーが、同志社からたくさん出てきてくれると嬉しいです。我々であれば、千利休以降の歴代宗匠(そうしょう)方が積み重ねてきたことを発展させる努力が必要です。若輩者がおこがましいことを申しますが、同志社であれば、新島先生が思い描いていた学校に勝る教育的理想の境地を目指す必要があるでしょう。時間が経つにつれて、減衰させるのではなく、歴史を積み重ねていくなかで、どんどん成長させていけるような世界を共に目指したいですね。

インタビューを終えて感想

■青木 菜々子さん(同志社大学法学部3年次生)

 茶の湯を一つのコミュニケーションアートと捉え、茶道から生まれる人同士の対話や関係性をとても大切になされている伊住さんの言葉がとても印象的でした。加えて、伊住さんは、伝統的なお茶文化に、新しい価値観を見いだし、成長させていこうかと考えておられ、常に茶道の将来を見据えて行動されている方なのだと感じました。伊住さんのお話を聞いて、今後、茶道の世界がどのようになっていくのかを想像し、とてもワクワクしました。
 また、同志社という学園で過ごす中で、自分が確立していなければ、ただ時間が過ぎていくだけで、自由であるためには、しっかりと芯を持ち、自分を確立させていくことが大切なのだと感じました。私の同志社での学生生活も残り僅かですが、この残された時間を無駄にすることなく、人に流されない「自分の芯」を作りたいと思いました。


■乾 心優子さん(同志社高等学校3年生)

 この度は、同志社150周年記念事業のインタビュアーとして千利休の子孫であり、茶人の伊住 禮次朗さんにお話を伺えた事は、とても光栄で貴重な経験となりました。
 どのようにすればお茶会で茶道をもっと身近に感じてもらえるのか。をお聞きしたところ、常に張りつめた厳格な雰囲気を保つのではなく、お茶会に「緩急をつけることが大切である」とおっしゃっておられました。緩急とは、お茶席で何か困っている様子の方がおられれば、そっとサポートをして、目の前に置かれた、このたった一杯のお茶を通して、その場の空間を一緒に作り上げていくという事です。私は亭主としてお茶会に参加すると、つい自分のことで精一杯になってしまっているので、今後は緩急を心がけて臨んでいこうと思いました。
 インタビューの中で、伊住さんが「今も同志社で出会った人々との交流が続いている。同志社は自由であり、自由は自らを由とすると書くから、自分で考え、行動していかないといけない」とおっしゃっておられるのを聞いて、私もかけがえのない友人やクラスメイトとの今過ごしている時間を大切に、同志社の自由の中で、自らを律して自分をもっと表現できるように、これから先も一緒に歩んでいきたいです。

【次回の同志社人インタビューに登場してくださる方をご紹介いただけないでしょうか。】

 北京五輪で日本初となるフェンシング銀メダルをもたらした太田雄貴さんを紹介させていただきます。

 私自身、同志社大学在学時にその雄姿をテレビ越しに拝見していました。現在でもその積極的姿勢をもってスポーツ界の発展のために尽力されておられます。太田さんとは出会って間もないですが、豊富なご経験からくるメッセージを私が聞きたい!という想いからバトンをお渡ししたいと思います。

——— 次回は、太田雄貴さん(2008年3月同志社大学商学部卒業)にご登場いただきます。お楽しみに!